デジタル庁「ガバメントAI源内」大規模実証開始:全府省庁18万人が国産LLM7モデルを利用

デジタル庁が全府省庁職員約18万人を対象とした生成AI利用環境「ガバメントAI源内」の大規模実証を発表。NTTの「tsuzumi 2」、KDDI・ELYZAの「Llama-3.1-ELYZA-JP-70B」、ソフトバンクの「Sarashina2 mini」、NECの「cotomi v3」など国産LLM7モデルを選定。日本の行政AI化と技術自主を推進する重要な一歩。

背景

2026年3月、日本のデジタル庁は大規模な生成AI実証プロジェクト「ガバメントAI源内」を正式に発表した。江戸時代の万能発明家・平賀源内にちなんで命名されたこのプロジェクトは、全府省庁の約18万人の職員を対象に、2026年5月から2027年3月までの約1年間にわたって実施される。日本政府史上最大規模のAI活用実証であり、世界的に見ても政府レベルのLLM導入事例として先例のない規模だ。

国産LLM7モデルの戦略的選定

プロジェクトの最大の特徴は、GPT-4・Claude・Geminiなどの海外主要商業モデルを意図的に排除し、国産LLM7モデルを選定した点にある:

  • **NTT「tsuzumi 2」**:企業向けに最適化され、行政文書や法律文書などフォーマルな日本語に強み
  • **KDDI × ELYZA「Llama-3.1-ELYZA-JP-70B」**:MetaのLlama 3.1をELYZAが日本語に深くファインチューニング、70Bの推論能力を持つ
  • **ソフトバンク「Sarashina2 mini」**:CyberAgentと共同開発、推論効率とコストのバランスに優れる
  • **NEC「cotomi v3」**:セキュリティコンプライアンスとオンプレミス展開能力を重視
  • その他3モデルは順次発表予定

この選定は、日本の「AIソブリンティ(AI主権)」戦略を色濃く反映している——政府の機密情報を海外サーバーに渡さず、同時に国内AI産業を育成するという二重の目的がある。

技術アーキテクチャと活用シナリオ

統一アクセスプラットフォームを通じて、職員は標準化されたインターフェースで各LLMを利用できる。主な活用シーン:

1. 行政文書の起案・審査

2. 法規解釈・政策Q&A

3. 議事録整理・要約

4. 省庁横断の情報収集・集約

5. 市民サービス回答文の生成

特筆すべきは**マルチモデル並行評価機能**——同じクエリを複数のモデルに投げて出力を比較できる。これにより、実際の行政現場での定量的なモデル評価データが蓄積される。

セキュリティとデータ主権

政府情報の機密性を踏まえ、厳格なデータガバナンスが適用される:

  • 全モデルを国内データセンターでホスティング(オンショア)
  • 機密区分以上の文書入力禁止
  • 完全な操作ログと監査証跡
  • AI出力のバイアス・品質定期評価
  • 公式利用前の人間によるレビュー義務化

産業への影響

国産LLM企業にとって、このプロジェクトは三つの重大な恩恵をもたらす。第一に、18万人のプロユーザーからの実世界規模のフィードバック。第二に、政府採用という商業営業での最強の説得材料。第三に、政府調達市場での先行者優位の確立だ。

国際的に見ると、フランスのMistral中心の「主権AI」戦略と最も近いアプローチだが、規模は格段に大きい。

課題とリスク

一部の国産LLMは、GPT-4oやClaude 3.7などトップクラスのモデルと比べて汎用能力に差がある。18万人規模でのAIリテラシー教育も大きな課題だ。AI補助による行政文書のエラーに対する法的責任の帰属も未整備のままである。

今後の展望

デジタル庁は2027年上半期に包括的な評価レポートを公表する予定。長期的には、「ガバメントAI源内」が日本の「行政AI化」戦略の礎となり、政府という最大の企業顧客を通じて国内AI産業を下支えし、グローバルAI競争における日本の技術主権を確保する役割を担うことが期待される。